高城くん

僕は、高城くんが遺体になって戻ってくるものとばかり思っていた。
高城ヨシロウという名前がついた遺体。
戦争で大量生産される遺体と違って、僕たちの社会では、ほとんどの確率できちんと名前のついた遺体になれる。
しかし高城くんは、きちんと生きている高城くんとして戻って来た。もちろん名前も変わっていない。
彼は、ある月曜日の朝、「どこかに行ってくる」というメールを僕に送り、その内容の通り、どこかへと行った。
社会人の誰もが憂鬱な月曜日だ。ブルーマンデーは一つの世界共通言語として僕たちを脅かす。
その月曜日には、もちろん高城くんにも僕にも仕事があった。でも、高城くんはどこかへ行ってしまった。
社会人4年目の僕たちは、新人研修の時に友達になってから、ちょくちょく飲みに行っていた。初めに彼を見たとき、こんな辛気くさいやつがよく金融機関で働く気になったな、と思ったものだ。そういう僕もかなりの辛気くさい顔をしていたのだと思うが。彼の顔は、米俵のようにすんぐりとしており、肌もそれほど綺麗なわけでは無かった。しかし、目は大きくてぱっちりとしているので、決して男前では無いものの、全体的にそれほど変な見た目では無い。
僕が彼と仲良くなったのは、僕も同じく人付き合いが苦手だ、という事情もあるものの、彼は非常に頭が良く、それが僕はとても気にいったのだ。しかし頭の回転が早いとか、人付き合いがうまいとか、そういった種類の頭の良さでは無い。
うまく言えないけど、ある人が空中に浮かんでる物体に対して驚き、その理由を考えるのに対して、彼は驚かずにそれを当たり前のことだと考えるのだ。どのようなことも、すべてが彼にとっては当たり前のことだった。驚くようなことはこの世界に何一つ無い。彼は、一つの達観そのものだった。

だから、僕の隣で彼が、死のうかな・・・と言い出した時、それも彼にとって驚くべきことでは無かった。僕にとっては驚くべきことではあったけれど。
「いや、脈絡が無いだろ。いや、俺がトイレから戻ってきたタイミングでそんなこと言ったとかそういうわけでは無くて。高城くんの人生において脈絡無いだろ。」
僕は、セリフの通りトイレからカウンターに帰って来た時だった。武蔵小杉にあるこのバーは、料理メニューも充実しており、値段も高く無いのでよく行っていた。カウンターの他にはテーブル席が2、3有り、ちらほら客が居る。カウンター、テーブル、イス、すべて木で出来ている山小屋のような内装は、冬でも夏でも変わらず暖かい雰囲気を作っている。音楽は60年代の海外のロックンロールが主だが、たまにYMOが流れたりもする。
「脈絡の有る無しはあまり関係無いと思う。ひとそれぞれ、見てるもの感じてるものは違う。」
彼は、梅酒ソーダを飲みながらそう言った。
「まあ、もちろんそうだ。すみません、IPA(インディアン・ペール・エール)ください。」
僕は、横で死のうかな・・・と言い出した友達の隣に居ながら、とりあえずビールを頼む。しばらくお互い無言だったが、ビールが来た時に僕は言った。
「まあ、いろいろ理由もあると思うし、話が重くなるから理由は聞かないけど、友達として、そしてまた一般論として、俺は高城くんに、それはやめといた方がいいよ、と言うよ。そもそもどういう風に死ぬ?」
「旅に出るのさ。旅に出る。」
「どこに?」
「どこかに。」

彼は、そう言った通り、どこかへと旅に出た。仕事を初めとする、様々な社会的なものをすべてほっぽり出して。
しかし別に、すべてをほっぽり出すことは、彼にとって気持ちのいいものでも、怖いものでも無かったに違いない。彼は、一つの達観だったからだ。
彼が帰って来てから一週間後に、例のバーで会った。
だいたいいつも、ビールが来てから僕たちの会話は始まる。
「どうした?生きて帰って来るとは思わなかったよ。宗教でも始めたか。」
「まあ、もちろん君は俺がどこに行ってたかとかは聞かないだろうけど、遠くに行って来たよ。」
「どこに?」
「どこかへ。」
「もう少し詳しく。」
「そこは6畳の部屋だよ。いつも住んでる部屋では無いけどね。いつも住んでるあの武蔵中原のマンションだったらすぐ知り合いが来ちゃうしね。」
「そうだよ。まったく音信不通だったから、会社の人と一緒に君ん家行ったんだよ。」
「やはりね。だからこそ、誰も来ない6畳の部屋が必要だったんだ。」
「結局どこかいろいろ旅したわけではないのか?」
「いや、ものすごい旅をしたよ。6畳の部屋で、天国や地獄や、いろんなものを見た。神経をメスでそぎ落とされるような痛みや、体がバラバラになって、虹にとけ込むような快感を見た。」
「なんで戻ってきた?」
「脈絡の有る無しは問題では無いだろう?」
「もちろんそうだ。」
「一つの日常に戻って来た。それだけのことだよ。ただ、日常は踊り続ける。」
そうだ。日常は狂ったように踊り続ける。いっとき離れることも大切だ。

ゼロ

 五年前に一緒に寝たことのある犬と道端で再会した。寝たと言ってもセックスをしたわけでは無い。犬とセックスをするのは、どれだけ性に対してリベラルなアメリカにおいても、容認されるのはまだまだ先のことだろう。
 その犬は、前足の片方が無い。先っぽが、細長く絞られた雑巾のようになっているその足に、出来るだけ刺激を与えないように恐る恐る歩くのを僕は見ていた。もはや痛くもないはずだが、前足を無くした直後、その痛さを避けるために、そのような歩き方が身に染み着いてしまったのだろう。

 夏も終わろうかという9月の下旬ごろ、僕は相も変わらず酒を飲んでいた。しかしその日は僕の人生という歴史の中で、なぜ存在したのかわからない、オーパーツのような日だった。
 僕は、ある女の子と一緒に渋谷のバーでお酒を飲んでいた。31歳だというのに彼女も居なく休日ともなれば独りで本を読んだり映画を見に行ったりしている僕を見かねた友達が、女の子を紹介してくれたのだ。その友達は大学卒業後銀行に就職し、ずっと融資係をしている。結婚もしていたし、子供も居た。ふつうの人間がふつうにするべきことのすべてをやってきている人間だった。僕は彼がうらやましかった。だが、ここで彼のことはあまり関係がない。問題は女の子なのだ。
 その女の子は27歳で、彼と同じ銀行で事務の仕事をしていた。見た目は、いやらしくないくらいの茶髪のロングヘアで、目鼻立ちのしっかりしている、客観的にみると美人な女性だった。薄い青みがかかった白のブラウスに、黒いカーディガンを肩に掛けている。彼女は気丈な顔立ちにも関わらず、春の日差しみたいに優しい表情をしており、白い頬はうっすらと赤みを帯びていた。
 109の左にある大通りを、ヤマダ電機、H&Mなどを左右に見ながら五分ほど進むと、文化村のあたりに出る。文化村の手前には、ラブホテル街へと向かう道路が何本かあり、その道路沿いには何軒か居酒屋かバーがあった。僕が、ラブホテル街と渋谷の境目にあるとも呼べるこのバーを選んだのは、決してヨコシマな気持ちがあったからではない。その日は土曜日だったので、どこの居酒屋も混んでいると思ったので予約をとったのだ。予約を取る時、場所もろくに確認せず、グーグルで検索して最初に目についたところに電話したのでこのバーになった。
 彼女と僕は、アンチョビ・ポテトやシーザーサラダ、竜田揚げなどおつまみを数品注文し、お酒を飲んだ。店内は静かで薄暗く、ハーレー・ダヴィドソンのバイクの模型や、アコースティック・ギターウイスキーの樽などが飾られており、壁にはバドワイザーの広告やロック・ミュージシャンのポスターが張られていた。その中に、ブラック&ブルーの頃のミック・ジャガーも混じっていた。僕はブラック&ブルーに入っているメモリー・モーテルという曲が大好きだった。
 ビールとレゲエ・パンチのグラスが重ね合わされ、僕たちは初めて自己紹介をした。駅からこのバーに行くまで15分くらいは歩くが、ほとんど無言だったので、この自己紹介は種明かしのような雰囲気だった。お互いこの人はどういう人なんだろうと思いながら渋谷の街を歩いていたのだ。
 名前など、基本的な自己紹介から始まり、今している仕事、趣味や好きなお酒などの世間話。特筆するべきものでもない会話が1時間ほど続いた。
 すでに2、3杯ほど飲み物を飲んでいた僕たちは、少し酔ってきていた。
 僕が、トイレに立とうかと思って、「ちょっとお手洗いに行ってきます」と言おうとした瞬間、彼女は言った。
「高山さんって、あんまり人に興味がないような話し方をするのね」
 僕は、ギクリとして、さらに尿意をもよおした。でも、とりあえずトイレに行くのはやめて、言った。
「そう?そう見える?ってまあ、自分でもわかってるんだけどさ」
 よほどギクリとした雰囲気が僕の顔から出ていたのか、彼女は言った。
「いや、高山さん、私、別にそれを責めてるわけじゃないのよ?人に興味がない話し方をどうこうしたり、どういう風に思ったりとか、そういうことはないの。ただ、事実確認というか・・・」
「そう・・・。そうなんだよね。よく言われる。人に興味が無さそうって。実際は・・・」
 僕は言葉に詰まった。詰まった僕を見て、次の会話へと彼女は移ろうとしたが、とりあえず僕はトイレに立った。
「ごめん、ちょっとお手洗いに行ってくるね」
 僕は、実際にそうだった。人を扱う学問、心理学を大学で研究しているにも関わらず、人は僕の遙か遠くに居た。人というものはどこか映画に写ってる別の国の人を見るようなものだった。そして、その人たちを、科学の力によって分解したいとは思うが、実際に密な関わりあいたいをしたいと思ったことはなかった。
 僕は机上の空論が好きだった。
 人はこのような状況に置かれたら、このような行動に出る。またはどのような心理状態からどのような考えや性格が生まれるのか。僕はそのようなことを学びたくて大学に残り、心理学の研究を続けている。人は研究対象であり、決して僕自身の感情をそそぎ込む対象ではなかった。ゲシュタルト心理学は、一つ一つの構成要素を分解し、理解するだけではよしとせず、その全体像をとらえることが大切だという。僕にとっても、興味のある人というものは、総体としての人であり、その構成要素であるAくんやBちゃん、Xさんなどではなかった。
 つまるところ、僕は人を好きになったことがないのだ。両親や弟などの家族、友達、異性、有名人、人に分類される世の中の誰に対しても、好きになることはなかった。それは僕の悩みなどではなく、むしろ長所だと思っていた。他人に対する感情が無い人ほど、この世の中を気楽に生きられる、と信じていたからだ。
 僕は、トイレで考えていたこのようなことを、戻ってくると彼女に伝えた。言葉は次から次に出てきた。普段考えていることで、しかもあまり言う機会のないことは、きっかけさえ与えられると、ほとんど嘔吐のように出てくる。
 僕が話している間、彼女はずっと沈黙していた。ありがたい説教である訳でもないのに、うなずきもせずに僕を見つめながら聞いていた。
 一通り話し終えると、彼女は言った。キューバ・リブレを飲み終えてから。
「高山さん、私もなの」
「どういうことだい?」
「いや、私も高山さんと同じく、他人に対して特別の思いいれをもてないの。高山さんも言うように、人を好きになったことがないというか」
 僕は、少しも驚かずに、その言葉を聞いた。彼女に対して興味が無いから、特に驚きもしないのだ。
「そう・・・なんだ。珍しい。僕みたいな人間も珍しいと思っていたけど、まあ、もちろん居るんだろうね。僕なんかが特別な人間の訳がない・・・。でもなんで?カナエさんはなんで人のことを好きにならないの?」
「人を好きになることにたぶん理由なんてないように、人のことを好きにならないのにもたぶん理由なんてないわよ。たぶん、そうよ」
 店内には、うっすらとビー・バップ・ジャズが流れている。バーテンダーがグラスを整理している音以外は、奇妙に遠くに聞こえる。客は僕らの他に数人のグループが2、3組居るくらいだったが、みなひそひそ声で話しているような錯覚を覚えた。
「なんか、悲しくなってきたね。人に興味のない二人がこんなおしゃれなバーでお酒飲んでなにやってるんだろう。出よう」
 残っている飲み物を無言で最後まで飲み、僕らは外に出た。やる気のないバーテンダーが、やる気のないお礼が背後に聞こえた。街のざわめきはまだざわめきのままだったが、たしかに違ったものになっていた。少なくとも僕にとっては。

 駅へと向かう途中、僕は少しわき道へとそれて歩いた。彼女は、なにも言わずついてきた。その通りはあまり人通りはなく、お店もまばらにあるだけで、寂れていた。すでにシャッターの降りている、個人経営の古書店の前で、僕は急に彼女を引き寄せて、キスをした。そのキスはキスとも呼べないくらい一瞬のもので、何の感情も入っていなかった。彼女も何の抵抗もせず、何の感情も抱いていないようだった。
 新聞でも見ているような目でお互いのことを見た。彼女は言った。
「ねえ、これ、何?」
 僕は言った。
「ごめん」
「高山さん、私、怒ってるとかそういうわけじゃないよ?これ、何なんだろうと思って」
 僕はほとんど目を開けながら寝ているような気分だった。首の後ろのあたりを掻きながら言った。
「わからない。わからない」

 その後彼女を駅まで送り届けた僕は、家に帰らずに渋谷の喧噪の中へと戻り、一人で飲みに行った。スペイン坂の途中に、一度友達と行ったことのあるカフェがある。500円で1パイントのビールが飲め、混んでいることも少ない。そこで僕はいくら使ったのかわからないほどビールとウイスキーを飲んだ。でも、吐きはしなかった。
 深夜の1時になってもまだ、僕はアルコールと孤独の中に居た。終電はとっくになくなっていた。
 その間ずっと僕は何であんなことをしたのか考えていた。共通点があるとすればゼロだ。感情のゼロ。彼女との共通点。しかし、もちろん彼女のことを好きになったわけではない。ゼロとゼロが惹かれあうこともない。ゼロなのだから。補いあう必要もない。ゼロなのだから。あのキスはほとんど偶然のものだった。
 ただ、必死に隠そうとしている孤独が彼女の中からも見えたのだ。しかも、その孤独は自分の中に問題がある孤独なのだからどうしようもない。
 そんなことを考えながら深夜の2時半くらいにやっと店を出た。行く宛もなかったが、30分ほど街を歩いた。このような時間帯なのに、街はミュージカルのように騒がしかった。老若男女問わず、人がうろうろしている。風俗店の客引き、学生風のカップル、まだ中学生のような若い男の子たち、中年のおじさんおばさんの集団、サラリーマン風の男。社会の縮図のような大通りを抜けて、静かな通りに出る。僕はまだ飲み足りなかったのか、500ミリリットルの缶ビールを買って飲みながら歩いていた。手にはチキンも持っていた。

 そこで前足がひしゃげたあの犬に会った。僕は、道ばたに座り込み、持っていたチキンをその犬にやった。
 犬は、チキンを食べ終わると、僕に寄り添って僕を見た。彼は、言葉を持っているものなら僕に、「かわいそうに」とでも言いたげだった。僕たち犬でさえ、感情を持っているよ?
 その犬を抱き抱えたまま僕はビールを飲んでいたが、しばらくすると意識を失った。

 朝目が覚めるともちろん犬はどこかに行っていた。僕は、壁にもたれ掛かる形で寝ており、横たわってはいなかった。幸い財布などは無事だった。長い夢の中にいるような感覚はすでになくなって、ただつまらない僕がそこに居た。
 強烈な朝日はすべてを焼き尽くしていた。僕のことも、彼女のことも。あのキスのことも。

殺人カメラマン

「本物の人物写真を撮ろうと思えば、その被写体の人物を殺さなければならない。」
 無機質な黒さを持った瞳で虚空を眺めながら、写真家は言った。独り言のようにも聞こえるが、ここに居るのは写真家と僕だけなので、僕に言ったのだろう。
 就職活動用の証明写真が欲しかったので、家の近くにあるきちんとした写真屋に行こうと思ってここに来た。しかし、こんなことを客に言うようではどうやらここはきちんとした写真屋ではないみたいだ。
 これから僕はアトリエの中でこの写真家に写真を撮られる。彼は薄緑色の長袖セーターを腕まくりして、カメラのセッティングを始めている。カーテンのように垂れ下がった白い幕をバックにして、僕は背筋を伸ばして椅子に座っていた。アトリエは少し暖房が効きすぎており、息苦しくて頬が火照っているように感じられる。
 僕は、パントマイムを終えた演者のように姿勢を急に柔らかく崩した。少し考えてから、言った。
「そうですか。それは、昔よく、写真を撮ると魂を抜かれるとか言われてましたが、そういうことですか?魂を抜いて写真に刷り込むみたいに鮮明で、生命力を現したような写真とか。」
 写真家は、カメラのレンズ越しに僕の方を眺めながら、大きい口の右側をつり上げながら言った。
「ずいぶんものわかりのよいお客さんだ。ほとんど正解に近い。」
「ほとんど?」
「そう。少し違う。いや、生と死が対極のものと考えている人にとっては、大きな違いがあるかな。」
 僕は鼻がかゆかったので少し顔をゆがめながら言う。
「と言いますと?」
「私が、被写体を殺さなければならない、と言ったのは、メタファーではなくて、そのままの意味なんだよ。被写体を、殺さなければならない。殺した後に撮る訳ではないよ。撮った後に殺す。私の芸術作品の中に納められた人間は、現実に生きていてはいけないんだよ。私の写真の中でだけ、生きていなくてはいけない。」
「それは、なぜですか?」
「では逆に、私の芸術作品の中で生きている人間が、なぜ現実で生きていなくてはならない?私の芸術作品は完璧だ。今の宇宙が無くなって、新しい宇宙が生まれた時にでも、5次元空間にでも置かれた保存カプセルの中で保管されていた私の作品は発見され、再度評価される。いわば、永遠に残るのだ。作品の中での永遠を約束された人間は安心して、むしろ自分から死を選ぶ。」
「なんとも乱暴な論理ですね。たしかに作品として未来永劫残ることはすばらしい。でも、生きていることとはなんら関係無い。」
「並河くん・・・だったね。並河くん、一つ言っておく。芸術は乱暴で、エゴに満ちあふれてて、狂っているものだ。それを評価する大衆や評論家が一切合切居なくなったとしても、芸術は芸術そのものとして残る。イデアのようなものだ。イデアとしての芸術は、すべてのものを飲み込む。時代が変わり、国が変わり、人が変わったとしても、芸術そのものとしての芸術、これはすべてのものを飲み込んでいくのだ。」
「そうですか・・・。まあそれはいいとして、僕は就職活動用の写真を撮りにきただけなので、芸術作品にしなくてもいいので、命を取らずにある程度のクオリティで撮ってください。」
「私は、芸術家だ。芸術作品しか撮れない。ちまたでは私のことを、写真家兼殺人家とか、殺人カメラマンとか呼ぶが、私は芸術家だ。芸術には人の死の匂いがあふれててしかるべきなのに、愚民はそれを恐れる。」
僕は少しムキになってきていた。
「いや、そういうのいいんで、命取らずに、適当に撮ってください。もう明日には面接があるんですよ。」
「いや、悪いがそれは無理だ。」
「いやいや、そういうのいいんで、ホント。ちゃんと撮ってください。」
「いや、無理だね。私の芸術になりなさい」
 怒りが頂点に達してきた僕は口調を荒げて言った。
「そもそも、芸術芸術言いますが、あなた全然有名ではないじゃないですか!今日初めてあなたの名前知ったし。戦場カメラマンの方がまだ有名ですよ!そこらへんに並べてる作品もちらちら目に入りましたが、全くふつうの写真ですよね。未来永劫残る訳もないし、そもそも芸術作品でもない!」

傷ついた殺人カメラマンは泣き出して、しぶしぶ、命を取らずに僕の写真を撮った。僕は、その殺人カメラマンが、頭がおかしくなることに憧れる、つまらない人間であることを理解していた。

短編小説

―――峰岡由佳さんという方を捜しています。
    平成21年11月頃より連絡が取れません。
     もし見つかりましたら下記まで連絡ください。
      相応のお礼をいたします。
       080-5784-9244 ―――
 電信柱に張り付けられている紙の上で、自分の彼女の名前と顔を見るとは思わなかった。午後2時半前、地面を焼く陽。その照り返しの中、彼女はその紙の上で微笑んでいた。いや、ほとんど半笑いだった。
 その紙はいわゆる人探し広告というものだ。電信柱にでもすがる思いで、ほぼ絶望にかられながら誰かを捜している人が張るのだろう。
 でも、その峰岡由佳はたぶん僕の彼女の峰岡由佳のことではない。なぜなら、峰岡由佳は僕の彼女で、昨日デートをしたからだ。僕は峰岡由佳の実家で両親にも会ったことがあるし、運転免許証も持っている大学3年生の由佳はどう考えても身元のはっきりとした人間だ。
 よって、この峰岡由佳は僕の峰岡由佳ではない、と結論づけようとした時、この写真はどういうことだろう?という当然の疑問が頭に浮かんだ。
 その紙にカラーで印刷されている写真は、まさに僕の彼女の峰岡由佳だった。
 写真は少し前のもののようで、今とは少しだけ髪型が違った。今はセミロングヘアで少しパーマがかかっているが、その写真では由佳の髪はほとんどストレートだ。顔は相変わらず子供のようでかわいいが、今よりも目が眠そうだ。化粧があまりされていないように見える。肩から上くらいしか写っていない写真だが、普段は着ないような緑色のパーカーを着ている。ともかく、写真が載っているのはまずいと思い、僕は電信柱からその広告をはがした。
 ガムテープで張り付けられていたその広告は、透明な袋で包まれていたが、いつか隙間からしみた雨でごわごわになっており、紙もずいぶん色が薄くなっていた。平成21年11月頃から連絡が取れません、という内容が書かれているが、どうやらその時期からずっと張られていたようだ。
 僕はその時、渋谷まで買い物に行こうと、家から駅へと向かっていた途中だった。普段は曲がる角から、住民どおしが口論しているのが聞こえたので、その日は違う道を通って駅まで向かっていた。僕はもう3年くらいこの町に住んでいるが、この道を通ったのは、初めて、もしくは記憶にないだけで一回くらい通ったことがあるくらいかもしれない。
 駅までの最短距離から少し迂回したそのルートは、ごくふつうの住宅街の中を通る。外国の人から見た日本人、もしくは日本人から見た外国人のように、ほとんど同じ顔に見える建て売り住宅が並んでいる。その通りの中頃にある電信柱にこの広告が張り付けられていた。
 僕は一度家に戻ろうかと思ったが、特に戻ってもすることがないのでそのまま駅へと向かった。
 まず最初に、混乱が僕の中に起こった。間違いなくこの広告の写真は峰岡由佳、僕の彼女だ。だけどなぜ?張られる理由がよくわからない。
 昨日、由佳は僕の隣で存在していた。
 恵比寿ガーデンプレイスで行われていた、古い外国映画上映のオープンイベントを見に行った後、ビールを飲みながら1時間半くらいゆっくりと食事をした。由佳は、僕が3杯くらいビールを飲む間に1杯だけカクテルを飲む。あまり酔わないうちに僕たちは別れ、それぞれ家に帰った。
 デートの概要を思い描き、由佳はたしかに存在していたことを確認した後、今度は怒りが僕の頭の中に起こった。
 誰か心ない人のいたずらだと思ったのだ。それが誰なのか、一瞬で2、3人は想像した。時間をかければもっと想像できる。でもその時思い浮かんだのは、僕の知りようもない由佳の元彼氏だとか、意地の悪い友達だとか、変質者だとかだった。
 その、僕に想像された名前も無き第三者に対して、僕は激しい怒りを抱いた。よりによって僕の彼女の名前と顔をさらしものにするとは。
 僕は基本的に歩いている時はmp3プレイヤーで音楽を聴いているが、その時は怒りで音楽さえ聴こえなくなっていた。そのまま5分ほど歩き、駅に通じる大通りへと出ると、mp3プレイヤーからはコールド・プレイの曲が聴こえてきた。怒りが少し冷めたのだ。
 本当に怒りを起こすべきかわからない状態で起きた怒りはすぐに静まる。恋に恋する人の恋愛が長続きしないように、僕の怒りもすぐ静まった。
 駅前まで着いた時、今度は僕の頭の中に探偵が起きあがった。その探偵はポワロでもホームズでもなかったが、とても子供のような顔をしていた。僕は、この謎を解明したいと思い、童心を掻き立てられていた。どう考えても理不尽な状況を解明したいと思う探偵が、僕を渋谷ではなく彼女の住む町へと向かわせた。
 JR南武線で武蔵溝の口駅へと向かいながら、僕は彼女がその日、女友達数人と遊びに行くことは知っていたので、どうやって二人で会おうか考えた。答えはすぐに思いついた。
 僕は由佳に、
「これから死のうと思う。全部嫌になった。最期に君に会いたい。」というメールを送った。
 これではメールを見た由佳はすぐに電話を僕にせざるを得ない。3分後、予想通り、まだ電車に乗っている最中に由佳から電話が来た。でも、僕はこの電話には出ない。電車に乗っているからではなく、電話に出ないことよって会わざるを得ないようにするためだ。僕は自殺志願者の演技なんか出来ないし、電話をとったら嘘をついている自分に対して吹き出してしまいそうだ。
 着信が2回ほど続き、「どうしたの森野くん、冗談だよね。」という留守電が入った。僕はそれに対してメールを返信する。
「冗談じゃないよ。絶望はすぐ隣に居る。僕はそいつに息を吹きかけられてしまった。今君の家に向かってる。夕方に友達と会うからまだ家は出てないでしょ?ドンキの隣のスタバに行くから、少し会おう。」
 今度はメールで由佳から返信が来た。
「冗談だと思うけど、ほんと、もう家出るところだったから、少ししか会えないよ?約束に遅れちゃうよ。後5分後くらいに行くよ。」
 武蔵溝の口駅に着き、北口から出る。マルイやノクティを横目に、高架化された駅前広場を横切る。休日なので何人かがそれぞれの楽器を持って歌ったり、風呂敷を広げて小物を売ったりしている。階段で地上に降りて少し歩くとスターバックス・コーヒーがある。僕はその前で待つことにした。高津駅へと通じるこの商店街から少しはずれたところに由佳の実家はある。だから、由佳が出てくるであろう曲がり角を知っていた。僕は松屋と不動産屋の間の路地から、少し怒ったような顔の由佳が出てくるのを見た。
「ねえ、どういうこと?顔を見ると全くふつうじゃない。もう、5分後くらいには電車乗って友達んとこ行くよ?」
「やあ、由佳。ごめん急に。でも、本当なんだ。たしかに俺が死のうとしていることは真っ赤な嘘だ。でも、たしかにふつうのことじゃないんだ。ふつうじゃないことが起きてたんだよ。」
 由佳は、言葉で言うよりも先に、顔で疑問を呈していた。
「・・・ふつうじゃないこと?」
「ああ、そう。ふつうじゃないこと。とりあえずスタバに入ろう。」
 お互いコーヒーを頼んだが、僕がグランデサイズなのに対して、由佳はすぐに飲んで出ようと思ったのか、ショートサイズだった。
 窓辺の席に隣どおしに腰掛け、僕たちはコーヒーを一口ずつ飲んだ。
「由佳、君、誰かに捜索願い出されてない?」
 言葉よりも先に顔で困惑を呈しながら由佳は言った。
「・・・わけがわからないわね。捜索願い出されるくらいなら私はここに居ないじゃない。なんのことを言ってるの?」
「うん、結論から言おう。告白の時みたいにね。実はさ・・・君にちっちゃな捜索願いが出されてたんだよ。」
 僕はカバンにしまっていた例の広告を机の上に出した。
 さらなる困惑を呈しながら由佳は言った。
「えっ・・・。えっ?どういうこと。これ、森野くんが作ったの?ねえ。」
「俺はそんな愉快犯じゃないよ。これ、俺の家の近くの電信柱に張られてたんだよ。」
「えっ、えっ・・・いや、そんな、なにそれ。いや、まさか、怖いよそれ。どういうこと?」
「うん、どういうことかなぁ、と思って由佳にすぐ会わなきゃと。」
「いや、私に言われても・・・。って森野くんも言われても、って感じだけど、いったいどういうことなのかしら。怖い。」
「この古びた感じの紙を見てよ。ここに書かれてる通り、平成21年くらいから張られてたんだと思うよ。」
「うそ・・・。恥ずかしい。」
「ねえ、何か心当たりない?昔、こういうことしそうな彼氏が居たとか、ストーカーが居たとか。」
「平成21年っていうと・・・私たち大学1年生の頃だよね。心当たり・・・いや・・・だって初めて付き合ったの森野くんだもん。別に昔からもてる方でもなかったし。そんなの無いよ。」
 僕と由佳はまた一口コーヒーを飲んだ。由佳は少し考えていた。
「やっぱり、どう考えてもこういうことされるいわれは無いよ。こんなことしそうな友達も、一人も居ないし。どういうことなんだろう。張ってあったのってこの一枚だけ?他には無かった?」
「うん、僕が見つけたのはとりあえずこれだけだよ。たぶん他には張られてないと思うけど。」
「怖いな・・・。なんで張られなきゃいけないんだろう。」
「怖いよね。ふつうだったら、捜索している人の名前と住所が書かれているはずなのに、この広告には、電話番号しか書かれてない。」
「なんで怖いのかって、誰に探されてるのかわからないところだよね。私はここに居て、普段からふつうに生活してるし、森野くんって恋人も居る。住民票にも登録されてるし、免許も持ってる。まったくふつうなのに。この、私を探そうとしている人は、私を探していったいどうしようっていうのかしら。それも怖いね。あぁ、なんてこと」
 店内には、人がたくさん居た。パソコンを開いているビジネスマン、ママ友の集団、けだるく退屈そうなカップル、本や新聞を読んでいるおっさん、勉強している学生。誰もがよくわからない誰かに捜索されてるような怖い錯覚に陥りながら、僕は言った。
「怖がらなくていいよ。昔の彼氏とか変質者がこんなことしたわけはなさそうだし、もちろんマフィアとか裏組織に狙われているわけも無い。誰か知らない知り合いの知り合いとか、なにかしらのよくわからない流れでこんなことが起こったんだよ。ドラマだったらたぶんこの後に、仰天する展開が現れる。でも、俺たちはふつうなんだ。危険なことも起きない。安心しなよ。このことは忘れよう。俺がいたずらでこんなことをした、と思ってくれ。いや、実際そうなんだよ。俺が2年前、由佳に片想いしてた時、こんなことをしたんだよ。だからもう忘れよう。俺はもうずっと由佳の隣に居るしさ。」
「ありがとう。森野くんがやったと思って忘れるよ。」
 コーヒーのグラスを何回か傾けながら、10分くらいが無言で過ぎた。飲み終わると、僕は由佳に言った。
「友達が待ってるよね。ごめん。楽しく遊んで来なよ。」
「・・・うん、そうする。ありがとうね。」

 夜、僕は由佳に電話をした。夜の11時だったので、もう戻っているはずだった。
 電話が1回つながらなかった時、僕は由佳がシャワーを浴びているのだと思った。
 電話が2回つながらなかった時、僕は由佳が携帯電話を自分の部屋のベッドに放りだして、リヴィング・ルームでテレビを見ているんだと思った。

 電話が3回つながらなかった時、僕は由佳が死んでいるのだと思った。

 僕は部屋で独り叫び声をあげた。涙も流れてきた。半狂乱になりながら、昼間の広告に書かれていた電話番号に電話をした。
 080-5784-9244。
 電話はかかったけどつながらなかった。その後、また由佳に電話をした。つながらなかった。
 その後、また広告の番号に電話をした。つながらなかった。

 狂ったように由佳と広告の番号に電話をした。でもどちらもつながらなかった。
 由佳の家にバイクで向かおうと外に出た時、由佳から折り返しの電話が来て、僕は崩れ落ちた。
「どうしたの?お風呂入ってたのに。何かあったの?」

イイチラシというサイトのせんでん

先日サークルの先輩と会った。
開口一番に「いまおれが担当している
印刷会社のウェブサイトを紹介しろ」
と言われたので、久々にブログを書く。

調べてみると、この会社安いじゃないか。

→激安チラシ印刷の「イイチラシ」
http://www.e-chirashi.biz/price/b4/

B4チラシってこんなに安いものなのか。
学生時代にバンドサークルの新歓チラシを
お願いした印刷会社の値段はなんだったんだ……。

「チラシ 激安」とかでググったら
表示されるどのページよりも、安い。
(本当は2ページ目までしか見てないけど笑)

この会社、デザインや新聞折込もできるらしい。
印刷が必要になったら使ってあげてください。

わかりあえるのなら

「わかりあえるのなら」
http://www.youtube.com/watch?v=Q4kkxBCCVUA
http://jp.myspace.com/rkp2japan


「わかりあえるのなら」
       詞曲 ワールドアンドロイド

C    C6   G  C      G   C
ネクタイ結ぶ怠惰な毎日は 君には届かない昨日の歌

新聞たたむ窮屈な電車 僕には関係ない世界の歌

地震が起きてひび割れてしまった 僕らの人間関係を

オロナインでも塗って治せたらな 一晩寝れば元通りに

A7 F G G7

F      C
わかりあえるのなら
F        C
わかりあおうじゃないか
F    C
水に流した愛を
 F     G
全てかき集めて


君の瞳まっすぐ見つめたら どこにも無いような綺麗な色

君の唇じっと見つめたら どこにも無いような綺麗な色

それもいつかは消えてしまうかな 遠い昔の思い出話

9月のポスターに写ってた ロックミュージシャンは覚えてるのに


わかりあえるのなら

わかりあおうじゃないか

水に流した愛を

全てかき集めて

わかりあえるのなら

わかりあおうじゃないか

水に流した恋を

全てかき集めて

2011年アルコールの旅

「2011年アルコールの旅」

http://jp.myspace.com/rkp2japan


「2011年アルコールの旅」
    詞曲ワールドアンドロイド

D      G    D      A
チェック柄のスカートだけが 記憶に残ってる
       D
君は僕の視線感じる

逆光で撮った写真みたいな 君の面影

寂しそうに微笑むだけ

     Em            A
僕はビールを飲んで 必死に思いだそうとしてる
    Em6        A     G F
誰かに話しかけるふりして 自分に話しかけながら

Em A   D G F
2011年あの頃僕らは
Em   A        Bm G F
女の子よりアルコールの方が好きで
Em    A    D   G
話し合ったんだ今とか未来のことや
  Em   A    D
もう二度と戻らない昔のことを


悲しみに、とんでもなく愛情をこめたような響きの

君が弾いてたコードを

脳みそをアルコールで迷わせて もう一度探すよ

コードに乗ってた言葉も


僕はビールを飲んで 必死に思いだそうとしてる

誰かに話しかけるふりして 自分に話しかけながら


2011年あの頃僕らは

女の子よりアルコールの方が好きで

話し合ったんだ今とか未来のことや

もう二度と戻らない過去のことを


2011年アルコールの旅

エンディング・テーマみたいな歌が

目覚ましとして鳴り響く哀しい朝が

何度も、何度もやってくるのさ