小説でも書くか。

昔小説をほんの少し書いてて、結構長くなりそうな話で、概要も出来てて未完成だった話があったけど、USBを無くして全部消えてから、それをまた書く元気が無くなってたから、今度はまた新しい話を書く。
 特に概要を決めずに、ぼちぼち書けるときに書けるだけ書いていきます。概要が無く、まあ漠然と描こうとしてるものだけを決めて書きだすのは初めてですが、まあ、今回書き始めようと思ったのが、文章を書くこと自体が詞を書くにしても曲を作るにしても「何かを作る」上での練習になるので始める、ってくらいのもんなので。
題もまだ決めてない。




 人の不幸話は酒が進む。不幸話と言っても、「俺の友だち、賃貸マンションの隣から変な匂いがするからと思い、苦情を言いに行ったら、内臓をえぐられて煮込みにされて、酒のつまみにされたらしいよ」とか、そのような生々しい不幸話では無い。酒のつまみとしての不幸話の中に酒のつまみにされた男を引用しても、笑いさえ誘えない。生々しい不幸というものは、文字通り、生ものなのでそのまま食べることが出来ない。グリム童話くらい寓話的な不幸に変える必要がある。
最寄駅を出ると、右側と左側にそれぞれ、昔ながらの長い商店街が続いている。両方の商店街に入口ゲートがあり、そのゲートは夜は光る。文字がライトアップされているわけではなく、文字自体がネオンになっていて光っているのだ。僕は、ネオンを見るとたまに、暗闇の中でネオンのように文字が光る文庫本を読むのを想像してしまう。目が悪くなりそうだけど、ハックルベリー・フィンの冒険とか、もしくは、フリー・メイソン関係について書かれた新書本とかを読むと雰囲気が出るのでは、とくだらないことも付随して考える。
商店街は神奈川県の中では多少有名な商店街であるらしいが、僕は知らなかった。たとえば音楽マニアに、「結構有名なんだけど、イタリアのプレミアータ・フォルネリア・マルコーニの『幻の映像』ってアルバムは聴いた?」と言われたとしても、まずそのバンド名自体がわからない、むしろそれがバンド名なのかさえもよくわからないといったような感覚だ。みんな、自分の詳しい領域における有名なものを、他の人も知ってるはず、と思ってるがそんなことはない。ちなみに僕はプレミアータ・フォルネリア・マルコーニは好きなんだけれど。ともかくその商店街は、その長さといい、栄え具合といい、確かに普通の商店街を超える様相を呈していたので、一年前に僕がこの街に引っ越して来た時、有名だと言われる理由が分かった気がした。
僕の自宅は左側の商店街が終わるくらいのところにある。今日は金曜日であり、会社の飲み会も無く、特に予定も無かったので、その途中にあるモツ煮屋に、独りで初めて入った。今までその店に入らなかった理由も無いが、入る理由も無かったのでいつもは横目で見て通り過ぎるだけであった。別に今日そのモツ煮屋に入る理由も無かったけれど、ビールがタイム・サービスで三百五十円になってる看板を見て、何となく入ったのだ。
そのモツ煮屋は建物の一角にあり、周りは全て透明なガラス戸、及び透明のビニールシートに囲まれている状態なので、中の様子が丸見えだ。僕は、男は絶対に浮気をするときにこのお店を使わないな、と思った。でもまあ、昨今のホワイト・カラーの労働者が、この昭和六十年代の雰囲気を漂わせたモツ煮屋を、浮気相手とお酒を飲みに行くのには使わないだろうと思い、考えるのをそこでやめた。もともとが、どうでもいいことであるし、そもそも僕の考える「どうでもいいこと」にはユーモアが無いのだ。そして僕は、たとえ死んだとしても死んだことに気付かないんじゃないか、というくらい先入観が強すぎるので、「浮気」=「僕らホワイト・カラーの労働者」=「おしゃれなバーか居酒屋かホテル」、という鎖がつながった瞬間に他のことは全く頭に思い浮かばない。ところで、死んだことに気付かない男の話は、世界中にどれだけあるんだろう、というどうでもいいことをまた考え出した時に、ビールがやっと運ばれてきた。
カウンターの向こう側がすぐ厨房なので、ビールが注がれたり、モツが煮込まれたり、野菜が切られたり、皿が洗われたり、店員が店長に怒られたりしているのが仔細に見える。新人とは言えないまでも、入って一、二年くらいしか経っていないだろうな、と思える若い大学生風の店員が飾り気の全くないコースターを敷き、ビールを置く。
「ビールです。後、お通しです」
まことに真実を語っているその言葉は、「私は人間であり、理性である」とでも言ってるような哲学者を思い起こさせた。僕の先入観によると、その哲学者は、ひげはボウボウだが頭には毛が一本も無いはずだ。僕は少しうなずき、返事の代わりとする。仕事が人としゃべるサービス業のようなものなので、独りで街に居る時は極力人と会話をしないようにしている。
とりあえず一口ビールを飲むと、「仕事終わりに飲むビールはなんてうまいんだ」と、仕事終わりにビールを飲むたびに考える定型文をとりあえず頭の中で再生してから、僕は隣の男女が話す不幸話に耳を傾ける。僕は独りでカウンター席に座っているので、すぐ後ろのテーブル席に座ってるその男女の顔はよく見えなかったが、他に客の数は四、五人くらいの静かな店内では、よくその会話が聞こえる。店内は、テーブルが五つほどあり、カウンター席にはたぶん七人くらいは座れるんじゃないか、というくらいの広さだ。BGMはラジオであり、夜のニュース番組を放送している。音楽は全く無く、ラジオ・キャスターの無機質で機能的な声と、客の声しか店内に無い。今日は山口県で三人の男女が練炭自殺をし、ある有名な俳優がある有名な俳優と熱愛宣言をしたようだ。
「じゃあともみちゃんは今、その男に付きまとわれてるってことだよね?でも、な んで警察に言わないのかな?普通、風俗嬢のスカウトマンがそんなにしつこく女性をスカウトしようとすると、人は国家権力によってそいつを制裁してもらおうと思うもんだけど」
「それがそううまくいかないから、ともみからこうして私に相談が来てるの。警察に言えるならとっくに笑い話になってるわよ。変な哲学を振り回すスカウトマンをこないだ逮捕してもらったんだーギャハハ・・・って」
「詳しい話を聞いてもいいのかな俺は?もしかしたらすでに強姦されちゃってて、ビデオ録られてそれをネタにゆすられ・・・とかディープな話じゃ」
「じゃないよ別に」



<つづく>